記事作成日:2026年10月6日
「配偶者の言葉や態度に、長いあいだ傷つけられてきた。これはモラハラだと思うけれど、慰謝料は請求できるのだろうか。できるとしたら、いくらくらいなのか」——。
当事務所では、判例データベースで過去20年分の裁判例を調べ、モラハラなどの精神的な加害を理由に慰謝料が認められた判決を集計しました。条件に合う判決は7件で、そのうち5件が100万円でした。この記事では、集計の結果と、金額を左右する事情、慰謝料が認められるために必要なことを解説します。
この記事のポイント
- 慰謝料が認められた7件のうち、5件が100万円でした。残りは200万円と250万円が1件ずつです。
- 200万円以上になったのは、精神科の治療が必要になった事案と、約17年にわたって暴力と暴言が続いた事案です。
- 7件のうち6件では、暴言とあわせて身体的な暴力も認定されています。言葉や態度だけで慰謝料が認められた判決は1件でした。
- 「モラハラ」を主張しても認められなかった判決もあります。いつ、どのような言動があったのかを示す証拠が欠かせません。
まず結論:7件のうち5件が100万円
認められた慰謝料は、最も低いもので100万円、最も高いもので250万円でした。7件を金額の順に並べたときの真ん中の値(中央値)は100万円、平均は約136万円です。
7件は、判決の認定のしかたによって2つに分けています。暴言などの精神的な加害と身体的な暴力をまとめて認定したものが5件で、100万円から250万円でした。モラハラを中心に認定したものが2件で、100万円と200万円です。
ここでいう金額は慰謝料そのものの額で、判決が別に認めた弁護士費用は含めていません。
どのような調査をしたのか
判例データベース「判例秘書」で、2006年10月から2026年10月までの20年間の裁判例を検索しました。「モラルハラスメント」「モラハラ」「精神的虐待」「暴言」「人格を否定」といった言葉と、「離婚」「慰謝料」を組み合わせた3通りの検索を行い、それぞれ77件、84件、36件が該当しました(互いに重なりがあります)。その全件について、主文と関係する部分を確認しています。
集計の対象にしたのは、配偶者(元配偶者と内縁の相手を含みます)からのモラハラ、暴言、人格否定などの精神的な加害を理由に、判決で慰謝料が認められた事案です。次のものは対象から外しました。
- モラハラなどの主張が認められなかった事案
- 不貞行為が慰謝料の主な理由になっている事案
- 一度きりの身体的な暴力が主な理由になっている事案
慰謝料が認められた7件
金額の高い順に紹介します。
250万円
東京地裁令和6年3月26日判決
婚姻した当初から別居まで、日常的な暴力と暴言が続いた事案です。子どもたちにも暴力や暴言が及んでいました。裁判所は、長期間の日常的な暴力・暴言によって離婚を余儀なくされたとして、精神的苦痛は250万円を下回らないと判断しました。
200万円
東京地裁令和元年9月10日判決
妊娠中の妻に対する一連のモラハラが認定された事案です。妻は強い不安、不眠、抑うつの症状で精神科の治療を受けました。裁判所は、行為の悪質さ、治療が必要な状態になったこと、妊娠中に離婚を余儀なくされたことなどを考慮しました。 この判決は別の記事で詳しく紹介しています。
100万円
東京地裁令和6年2月5日判決
夫が妻に請求した事案です。夫が主張した「モラハラ」は認められませんでしたが、妻の暴言と暴行は認定されました。裁判所は、性格の不一致などが土台にあるとしつつ、破綻の主な原因は妻の暴言・暴行にあるとしました。
100万円
東京地裁令和5年12月7日判決
侮辱や人格否定といったモラハラと、頭に全治約2週間のけがを負わせた暴力が認定された事案です。女性はパニック障害を再発しました。ただし、女性の言動に原因がある部分もあり、関係が壊れた原因は双方にあるとされました。
100万円
東京地裁令和4年3月29日判決
身体的な虐待と、暴言などの心理的な虐待が継続していた事案です。元妻への100万円とは別に、子ども2人にもそれぞれ100万円の慰謝料が認められました。
100万円
東京地裁令和2年3月10日判決
元夫の暴言と暴行が認定され、元妻はPTSDを発症しました。一方で、元妻もインターネットへの投稿が名誉毀損にあたるとして、元夫に55万円を支払うよう命じられています。
100万円
東京地裁平成30年5月11日判決
日常的な暴言と暴行に加え、離婚届への署名を強いたことが認定された事案です。
金額を左右する事情
7件の判決が金額を決めるにあたって考慮した事情を整理しました。件数が少ないため、あくまで傾向としてお読みください。
金額が上がる方向にはたらく事情
- 加害行為が長期間にわたり、日常的に繰り返されていたこと。最高額の250万円は、約17年にわたる事案でした。
- 被害を受けた側が、PTSD、抑うつ、パニック障害などを発症し、治療が必要になったこと。
- 妊娠中など、被害を受けた側が特に弱い立場にあるときの行為であること。
- 子どもにも暴力や暴言が及んでいたこと。
金額が下がる方向にはたらく事情
- 請求する側の言動にも原因があり、関係が壊れた責任が双方にあるとされたこと。
- 性格の不一致など、どちらか一方の責任とはいえない事情が土台にあること。
- 婚姻期間が短いこと。ただし、婚姻から別居まで1年未満でも200万円が認められた判決があり、被害の重さによって結論は変わります。
「モラハラ」だけで慰謝料が認められた例は少ない
今回の7件のうち、身体的な暴力をともなわず、言葉や態度によるモラハラだけで慰謝料が認められたのは、東京地裁令和元年9月10日判決(200万円)の1件でした。ほかの6件では、暴言と暴力があわせて認定されています。
調査の過程では、モラハラの主張が認められなかった判決も見つかりました。日常的なモラハラがあったとしても不法行為にあたるほどではないとされた例、暴言があったと認定できないとされた例、暴言や暴行によって夫婦関係が壊れたとは認められないとされた例などです。
裁判所が慰謝料を認めるのは、いつ、どのような言葉や行為があり、それがどのくらい続いたのかが、証拠によって具体的に示された場合です。次のような記録が手がかりになります。
- 暴言の録音
- LINEやメールのやり取り
- 日付を入れて書きためた日記やメモ
- 心身の不調で受診したときの診断書
この記事をお読みいただくうえでの注意点
- 集計できた判決は7件と少なく、すべて東京地方裁判所のものです。データベースに登載された判決に限られるため、相場の目安としてお読みください。
- 7件の多くは、離婚したあとに損害賠償を求めた訴訟です。家庭裁判所の離婚訴訟のなかでモラハラを考慮して慰謝料を定めた判決は、今回の調査の範囲では見当たりませんでした。
- 話し合い、調停、裁判上の和解で解決した事案は含まれていません。
- 慰謝料の額は、個別の事情と証拠によって変わります。この記事は、特定の金額が認められることをお約束するものではありません。
参考:集計した7件の一覧
| 判決 | 認定のしかた | 慰謝料 |
|---|---|---|
| 東京地裁 令和6年3月26日 L07930704 | 暴言と暴力を一体で認定 | 250万円 |
| 東京地裁 令和元年9月10日 L07431726 | モラハラを中心に認定 | 200万円 |
| 東京地裁 令和6年2月5日 L07930611 | 暴言と暴力を一体で認定 | 100万円 |
| 東京地裁 令和5年12月7日 L07832518 | モラハラを中心に認定 | 100万円 |
| 東京地裁 令和4年3月29日 L07731228 | 暴言と暴力を一体で認定 | 100万円 |
| 東京地裁 令和2年3月10日 L07530612 | 暴言と暴力を一体で認定 | 100万円 |
| 東京地裁 平成30年5月11日 L07330576 | 暴言と暴力を一体で認定 | 100万円 |
判決日の下の番号は、判例秘書の判例番号です。金額は弁護士費用を除いた慰謝料本体の額です。
調査日:2026年10月6日。
ご自身の場合を、一緒に整理します
手元の記録で何が示せるのか、慰謝料を請求できる見込みがあるのかは、事情をうかがったうえで判断します。定禅寺通り法律事務所では、初回のご相談を無料でお受けしています。オンラインでのご相談にも対応しています。
