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モラルハラスメントによる慰謝料請求が認められた裁判例

最終更新日:2022年11月6日

1 モラルハラスメントの立証は難しい?

 「モラルハラスメント」という言葉は広く知られており、実際の離婚相談でも問われることの多い問題です。
 しかし、「モラルハラスメント」という言葉が広く知られていることとは裏腹に、実際の裁判例においてモラルハラスメントが明確に認定されるケースは、実は多くありません

 この記事では、モラルハラスメントが明確に認定され、慰謝料請求が認められた裁判例をご紹介しつつ、モラルハラスメントを主張・立証する上でのポイントを解説いたします。

 なお、「モラルハラスメントとはそもそも何か?」という問題については、以下のページで詳しく解説しております。
 こちらも併せてご参照ください。

モラルハラスメントについて知りたい

2 モラルハラスメントを理由とする慰謝料請求が認められた裁判例

 ご紹介する裁判例は、東京地方裁判所・令和元年9月10日判決です。
 この裁判例は、元妻(原告、以下「X」と表記します)が元夫(被告、以下「Y」と表記します)に対し、元夫のモラルハラスメント行為により離婚を余儀なくされたと主張し、離婚慰謝料を請求した事案です。
 この裁判例では、結論として、YがXに支払うべき慰謝料が200万円であると認められました。

 上記裁判例では、Yの言動について、次のとおり判断されています。
 「原告の人格を否定して被告の価値観を押し付け,被告に従わなければ徹底的に罵倒するような暴言を吐くようになり,その頻度や内容もエスカレートし,社会的に許容されるべき範囲を逸脱するものとなっていたことが認められるところ,これら一連の暴言がいわゆるモラルハラスメント行為に当たり,原告の人格権を侵害するものであることは明らかというべきである。

 上記のとおり、裁判所は、Yの言動がモラルハラスメント行為に該当し、社会的に許容される範囲を逸脱した違法なものであると明確に認定しています。
 裁判所がこれほど明確にモラルハラスメント行為を認定することは珍しいです。
 それでは、具体的に、Yのどのような言動がモラルハラスメント行為に該当するとされたのでしょうか?
 以下、裁判所が事実認定したYの言動をピックアップしてみます。

①Xの自宅には物が多すぎると文句を言い,「別居したい」等と言ったり,「妊娠で辛いときがあるのはわかるけど,辛くないときにやることちゃんとやってもらえないですか」と不満を述べたりした。

②「いうこと聞けないならもう助けられない」「バカなんですか?」「何が必要かほんとわかっていない人だね」「勝手にしろよほんと」と立て続けにメッセージを送信した。

③「意地汚い」「品がなさすぎる」「バカにどんな話しても通じない」との発言。

④XがDVDを買おうかと言ったことに対して「子供が生まれるのにそんなまたモノ増やす事言ってもうXさん死ねばいいと思います」と発言した。

⑤「贅沢にもほどがある,そんなんだったら子供なんか作らなきゃいい」「離婚して犬連れて帰れよ」「もう犬捨ててこいよ」等と発言。

⑥「クズ」「死ね」「離婚して子供もおろせ」「何様なんだよ このクズ野郎」「マジで死んでくれないかな」「親の教育が悪すぎる」「こんな最低な女見たことない」等とXを罵倒した。

⑦「やっていけないよ。あんたみたいなくそ人間と。自分のことしか考えてないんだよ。」、「おまえ死ねよ,本当に。ふざけんなよ。こっちが大丈夫だっつってんのに,勝手にインフルエンザって決め付けて人を追い出すな。いや,本当に離婚届,明日持ってくるから書いてね。俺は書くから。勝手に1人で産めよ。勝手に1人で育てろよ。だったら。」と発言。

⑧9回にわたり,Xに対し,「理不尽」「常識が欠如しすぎ」「最低」「頭が悪すぎる」等と非難するメッセージを送信。

 細かい事実はまだまだありますが、裁判所が問題視したYの言動はおおむね上記①~⑧のとおりです。
 Yの言動は、Xの人格否定をしたり、堕胎を迫ったりするなど、その内容自体が悪質です。
 これに加え、同居期間を通じてモラルハラスメント行為が継続的になされているという点も、違法性を認定する上で重要であったと思われます。

3 裁判例から導かれる主張・立証のポイント

 東京地方裁判所・令和元年9月10日判決を分析すると、モラルハラスメント行為の違法性を主張する上で重要なポイントが見えてきます。

 ポイントの1つ目は、「モラルハラスメント行為を、できる限り具体的に主張すること」です。
 たとえば、「相手方から暴言を受けた」などと抽象的な主張をするだけでは、モラルハラスメント行為の違法性が認められる可能性は極めて低くなります。
 上記裁判例において細かな事実が認定されているのは、Xが、ひとつひとつの事実を丁寧に主張した結果です。

 ポイントの2つ目は、「モラルハラスメント行為を裏付ける証拠を確保すること」です。
 上記裁判例の判決文を読むと、Xは、Yとやり取りしたメッセージ、Xの母親にモラルハラスメント行為の相談をしたLINEの履歴、Yとの会話録音といった証拠を多数提出していることがわかります。
 ひとつひとつのモラルハラスメント行為を丁寧に主張することと併せ、客観的な証拠を多数提出できたことによって、Xの慰謝料請求が認められたのだといえるでしょう。

 なお、実際のところ、モラルハラスメント行為についてすべて証拠を確保することは非常に困難です。
 夫婦でメッセージのやり取りをさほどしないケースもあるでしょうし、日常的に録音をすることも難しいでしょう。
 しかし、「配偶者の行為はモラルハラスメントに該当するのでは?」という疑いを抱いたとしたら、できるだけ早期に証拠を確保し始めるべきです。
 録音をすることが難しければ、配偶者から受けたモラルハラスメント行為を親族に相談し、その相談内容を証拠化(相談内容を録音したり、テキストメッセージで相談をするなど)しておくことも考えられます。

記事投稿者プロフィール

下大澤 優 弁護士 仙台弁護士会所属 登録番号49627

専門分野:離婚事件、男女関係事件

経歴:静岡県出身。中央大学法学部法律学科、東北大学法科大学院を経て、平成26年1月に弁護士登録。仙台市内の法律事務所での勤務を経て、平成28年1月、仙台市内に定禅寺通り法律事務所を開設し、現在に至ります。主に離婚事件・男女問題トラブルの解決に取り組んでおります。

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