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【裁判例紹介】強迫による慰謝料の合意について取消しが認められた事例

最終更新日:2022年11月13日

1 本記事のポイント

 この記事では、東京地方裁判所・令和2年9月24日判決をご紹介いたします。
 東京地方裁判所・令和2年9月24日判決は、婚約者の当事者である男性(以下「X」とします)が、婚約相手の女性と性交渉をした男性(いわば、不貞相手です。以下「Y」とします。)に対し、和解契約に基づく慰謝料請求をした事案です。

 つまり、裁判に至る前に、XとYとの間で慰謝料の合意が成立したのに、Yが約束どおりの支払いを履行しないため、Xが訴訟を提起したという事案です。

 裁判では、「XとYとの間で締結された和解契約が、Xの強迫によるものであり、Yが和解契約を取り消すことができるか」が争点となりました。

2 東京地方裁判所・令和2年9月24日判決の解説

(1) 事案の概要

 東京地方裁判所・令和2年9月24日判決の事案は、Xが、Yに対し、YがXの婚約者と性交渉をしたことに関する和解契約に基づき、和解金220万円を請求したものです。

 裁判に至る前、XとYとの間では、YがXに対し220万円を支払う和解契約が締結され、誓約書が作成されました。
 しかし、Yが約束どおり220万円を支払わないため、Xが裁判を起こしました。

 裁判では、Yから、「Yが和解契約に承諾したのは、Xが和解契約の締結の際にYに対して違法に害悪を加える旨を告知して、畏怖させたためである。」との主張がなされました。
 これはつまり、XとYとの和解契約は、Xの強迫によって締結されたものであり、取消されるべきである、との主張です。
 民法96条1項には、「詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。」と定められています。そして、民法121条には、「取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。」と定められています。
 つまり、Yによる強迫取消しの主張が認められれば、XとYとの和解契約は無効となり、YがXに対し220万円を支払う義務はなくなるということです。

(2) Yが主張したXの強迫行為

 Xの強迫行為としてYが主張した事実は、以下のとおりです。

 ・電話で「(手紙を)見たか。」「認めるな。」「お前の家に行ったぞ。」などと怒鳴りつけて、同月12日に原告と面談することを承諾させた

・本件誓約書の作成直前に、約30分間にわたって、「書け!判を押せ!」、「いや、じゃねえよ。やったんだろ。」、「いつから逢ってる。全部言え。」と怒鳴りつけた。

・「俺は、お前の家族に何でもできるんだ。お前の嫁をやってもいいのか。」、「会社に行ってもいいんだ。おまえがどうなっても、おれには関係ない。」と告げた。

・何度も「おい!」と大声で怒鳴っては、その都度手でテーブルを叩くなどし、2回にわたり靴で脛を蹴るなどの暴行を加えた。

(3) 裁判所の判断

 Yが主張する事実に関し、裁判所は、XがYに暴行を加えた点は認定しませんでしたが、その他の事実はおおむね認定しました。
 その上で、Xの行為が強迫にあたるかについて、裁判所は以下のように述べ、Xの行為が強迫にあたると認定しました。

「Xが本件和解契約の締結の際にYに対して、本件和解契約を締結しなければ、Yの自宅や職場に行って、Yがその妻ではないAとの間で性交渉を行ったことをYの家族や職場の関係者に告げるなどの害悪を加える旨の告知をし、Yは原告の上記告知に対して畏怖したものと認められる。」

「以上に加え、本件和解契約に係る支払額が220万円であり低額とはいえないことをも総合すると、XがYに対して害悪を加える旨の告知をして畏怖させたこと以外には、Yが本件和解契約に承諾する合理的な理由は見当たらず、Yが本件和解契約に承諾したのは、Xが本件和解契約の締結の際にYに対して違法に害悪を加える旨を告知して、畏怖させたためであるものと認めるのが相当である」

3 コメント

 東京地方裁判所・令和2年9月24日判決の事案からは、慰謝料に関する合意をする際に注意すべきポイントが抽出できます。

 まず、慰謝料を請求する側としては、違法行為の事実を相手方の親族、知人、勤務先等に知らせるといった言動をしないよう注意すべきです。
 不貞をされた側は怒り心頭の状態にあり、つい上記のような言動をしてしまいがちです。
 しかし、自らの権利を実現することを最優先にするならば、冷静な言動を心がけるべきです。

 次に、相手方に対し慰謝料の合意を求める方法にも注意すべきです。
 例えば、相手方を突然呼び出し、考える時間を与えないまま合意書を締結するといった方法は、後に合意の効力を否定されるリスクを高めるものです。
 すぐに合意を成立させたい気持ちはわかりますが、相手方に検討時間を与えた方が、後に合意の効力を否定されるリスクは低くなります。

 その他、合意をする慰謝料の額にも注意すべきです。
 あまりにも高額な慰謝料を合意した場合、その金額自体によって強迫行為の存在を推測されてしまうことがあります。
 要するに、「強迫によって畏怖しなければ、このような高額な慰謝料に合意することは考えられない」ということです。

 弁護士を交えないまま慰謝料の合意をしようとすると、つい無茶な言動に走りがちです。
 適切な慰謝料の合意をする場合、弁護士のアドバイスを受けることがベストです。

記事投稿者プロフィール

下大澤 優 弁護士 仙台弁護士会所属 登録番号49627

専門分野:離婚事件、男女関係事件

経歴:静岡県出身。中央大学法学部法律学科、東北大学法科大学院を経て、平成26年1月に弁護士登録。仙台市内の法律事務所での勤務を経て、平成28年1月、仙台市内に定禅寺通り法律事務所を開設し、現在に至ります。主に離婚事件・男女問題トラブルの解決に取り組んでおります。

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