最終更新日:2022年2月21日
1 はじめに
不貞慰謝料を請求する裁判では、ラブホテルなどへ宿泊した事実が主張されることがよくあります。
ラブホテルなどへ宿泊した事実が主張されるのは、それ自体が不貞の事実を強く疑わせるからです。
不貞の事実を立証しようとする場合、性行為そのものを直接立証することは極めて困難です。性行為の様子を動画で撮影していたような場合は別ですが、このようなケースは稀です。
不貞を直接立証することが難しい以上、間接的な事実による立証が重要となります。間接的な事実による立証をする場合、最も有効なのは、ラブホテルなどへの宿泊の事実を立証することです。通常は、男女が2人きりで宿泊をしたという事実によって、不貞関係があることが強く疑われます。
ところが、今回ご紹介する裁判例では、ラブホテルなどへ複数回宿泊した事実が認定されたにもかかわらず、不貞行為の存在が否定されました。
これは極めて特殊な判断なので、いかなる理由で不貞の事実が否定されたのか、本記事でご紹介しようと思います。
2 裁判例の事案の概要
ご紹介する裁判例は、福岡地方裁判所・令和2年12月23日判決(判例タイムズ1491号・195頁)です。
この事案の登場人物は、妻(以下「X」とします)・夫(以下「A」とします)・女性(以下「Y」とします)の3名です。
Xは、Yに対し、夫であるAと不貞を行ったと主張し、不貞慰謝料請求の裁判を起こしました。
YはAとの不貞を否定したため、裁判では、AとYが不貞を行ったか否かが争点となりました。
裁判では、AとYが複数回ラブホテルに宿泊したり、沖縄や東京を訪れた際にホテルに同宿した事実などが認定されました。
通常の事案であれば、男女がラブホテルに2人きりで宿泊した事実をもって、不貞関係にあったことが容易に認定されます。これは、合理的に考えて、男女がラブホテルに宿泊した場合には性的関係があったと推測されるからです。
ところが、福岡地方裁判所・令和2年12月23日判決は、AとYがラブホテル等に複数回宿泊した事実を認定しつつ、2人が不貞関係にあったことを認定しませんでした。
では、通常であれば考え難い認定がされた理由はどこにあるのでしょうか?
3 裁判例の判断内容
福岡地方裁判所・令和2年12月23日判決がAとYの不貞関係を認めなかったのは、2人の特殊な関係が理由です。
AとYはともに、アダルト・チルドレン(幼少期のトラウマを大人になってからも抱えた人々)の自助グループに参加しており、互いに学習をしてアダルト・チルドレンからの回復を目指す関係にありました。
そして、2人が相互学習をする際は、公共の会議室などを利用するほか、プライバシーが確保できるラブホテルなどを利用していたのです。
通常であれば、「相互学習をするためにラブホテルを利用した」といった弁解は信用されませんが、AとYの場合、性的な関係がないことを裏付けるLINEのやり取りや、相互学習のためにラブホテルを利用したことを裏付ける証拠が存在したのです。
このようなAとYの関係を踏まえ、判決では、次のように述べられています。
「本件不貞行為の存在について、一方で、・・・これを極めて強く推認させる事情があるものの、他方で、・・・上記推認に重大な疑問を差し挟む事情があるため上記推認は動揺することとなり、・・・未だ真実性の確信を抱くには至らないから、結論として、本件不貞行為の存在については、証明不十分といわざるを得ない。」
要約しますと、「ラブホテル等への宿泊はAとYの不貞を極めて強く疑わせる事情であるものの、AとYがやり取りしたLINEの内容などを踏まえると、2人が不貞関係にあったと確信することまではできない」ということです。
4 筆者のコメント
今回ご紹介した裁判例は、かなり特殊なケースだといえるでしょう。
実際の判決文を読むとわかりますが、「たしかに、AとYは不貞関係になかったのかもしれない」と思わせる事情が多く存在します。
この裁判例を手がかりに、「ラブホテルに宿泊したとしても、不貞を否定することができる」と安易に考えることは危険です。
むしろ、「ラブホテルに宿泊したことが認定された場合、よほどのことがない限り不貞は認められてしまうのだな」と考えるべき題材だと思います。
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記事投稿者プロフィール
下大澤 優 弁護士 仙台弁護士会所属 登録番号49627
専門分野:離婚事件、男女関係事件
経歴:静岡県出身。中央大学法学部法律学科、東北大学法科大学院を経て、平成26年1月に弁護士登録。仙台市内の法律事務所での勤務を経て、平成28年1月、仙台市内に定禅寺通り法律事務所を開設し、現在に至ります。主に離婚事件・男女問題トラブルの解決に取り組んでおります。