当事務所では、LINE電話・ZOOMを利用したオンライン相談を実施しております。クレジットカード決済も対応可能です。

興信所(探偵)の不貞調査はプライバシー侵害となるか

記事作成日:2023年3月26日
最終更新日:2023年3月26日

1 興信所(探偵)の不貞調査の問題点

 不貞の証拠を取得するため、興信所(探偵)に調査を依頼することは一般的なことです。
 調査の結果を取りまとめた調査報告書は、不貞を立証するための有力な証拠となります。

 他方で、興信所(探偵)が調査をする場合、調査対象者のプライバシーが侵害されます。
 調査対象者は、調査の結果、「いつ、どこで、誰と、何をしていたか」を細かく把握されてしまいます。
 知らない間に自身の行動が把握されてしまうことは、誰にとっても不快なことです。

 この記事では、興信所(探偵)の調査は無制限に許されるのか、許されない限度があるとすればその境界線は何か、という点について解説いたします。

2 興信所(探偵)の不貞調査が正当化される根拠

 そもそも、興信所(探偵)の調査について定めた法律はあるのでしょうか?
 実はあるのです。
 「探偵業の業務の適正化に関する法律」(以下「探偵業法」といいます)に、探偵業に関する規制などが定められています。

 探偵業法の第2条をみますと、次のように定められています。
 「この法律において「探偵業務」とは、他人の依頼を受けて、特定人の所在又は行動についての情報であって当該依頼に係るものを収集することを目的として面接による聞込み、尾行、張込みその他これらに類する方法により実地の調査を行い、その調査の結果を当該依頼者に報告する業務をいう。」

 以上の条文からわかるとおり、法律上、探偵が「尾行、張込み」による調査をすることは想定されています。
 探偵業法によって「尾行、張込み」という調査手法が定められている以上、尾行や張込みが調査対象者のプライバシーを侵害するからといって、ただちに違法となるわけではありません。

 とはいえ、調査のために必要だからという理由によって、あらゆる調査手法が適法化されるわけではありません。
 限度を超えた調査がなされれば、違法となる場合もあります。
 問題は、許される調査と許されない調査との境界線がどこにあるかです。
 次の項目で、このような問題が争点となった裁判例をご紹介いたします。

3 裁判例

 ご紹介するのは、東京地方裁判所平成29年12月20日判決です。
 この裁判例では、「不貞調査のため、調査対象者が宿泊するホテルの客室階において、調査対象者が客室に入る様子を撮影したことが違法か」が争われました。
 要するに、調査員がホテルの廊下に立ち入り、調査対象者がホテルの部屋に入る様子を撮影した行為の違法性が問われたということです。
 この事案において裁判所は、次のように判断しました。

 「本件のような不貞行為に係る撮影行為に当たっても,撮影場所,撮影目的,撮影態様,撮影の必要性等を総合考慮し,かつ,当該行為の根拠となる法令がある場合には同法令も踏まえ,被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを検討することとなる。」
 「本件の調査の目的は,原告の不貞行為に係る資料の収集ということにあって,そのような目的に照らせば,原告の不貞行為を示す客観的な資料として,原告であることを特定でき,かつ,原告が不貞行為をしていることを推認させるような場面を撮影する必要性は高い。
 「撮影場所・態様は,被告の調査員が,ホテルのロビーや客室階まで原告を尾行
,張り込みして,上記場面を撮影するというものであり,探偵業法所定の探偵業務の範囲に含まれているし,第三者が訪れるホテルのロビーや客室階という場所での撮影行為であって,ホテルや原告の不貞行為と関係があると認められない第三者の承諾が得られない可能性があるとしても,原告や不貞の相手方と目される第三者との関係において,著しく不相当であるとまでいうことはできない。
 「被告の調査員による原告の撮影行為は,原告の人格的利益を侵害するものであるにせよ,社会生活上受忍の限度を超えるものであるとはいえず,違法性はないものというべきである。」

 上記裁判例は、結論として調査の違法性を否定しました。
 結論はともかくとして、重要なのは違法性の判断方法です。
 裁判例は、「撮影場所・目的・方法・態様・必要性等を考慮して、調査対象者の人格的利益の侵害が社会的生活上の受忍限度を超えるか」という視点で判断をしています
 裁判例の事案では、ホテルの客室階という、不特定多数の者が訪れる可能性のある場所での撮影という事情を踏まえ、調査対象者の受忍限度を超えたプライバシー侵害はないと判断されました。
 ただ、少し事情を変えて、撮影場所がホテルの客室階ではなく、調査対象者が居住するマンションの廊下であったとしたらどうでしょうか
 裁判例の理屈に従えば、この場合は調査が違法とされる可能性があると思われます。

4 まとめ

 興信所(探偵)が行う不貞調査が違法となるか否かについて、はっきりと明確な境界線を引くことは難しく、個別の事案ごとに検討をするしかありません。
 検討をするにあたっては、裁判例が示す撮影場所・目的・方法・態様・必要性等を考慮して、調査対象者の人格的利益の侵害が社会的生活上の受忍限度を超えるかという視点が有用です。
 特に、「撮影場所」という要素は重要だと思われます。
 撮影場所がプライベートな空間に近づけば近づくほど、調査が違法とされる可能性は高まるでしょう。

お問い合わせはこちら

>>お電話でのお問い合わせ:022-3025240

>>メールでのお問い合わせ

>>LINEでのお問い合わせ

記事投稿者プロフィール

下大澤 優 弁護士 仙台弁護士会所属 登録番号49627

専門分野:離婚事件、男女関係事件

経歴:静岡県出身。中央大学法学部法律学科、東北大学法科大学院を経て、平成26年1月に弁護士登録。仙台市内の法律事務所での勤務を経て、平成28年1月、仙台市内に定禅寺通り法律事務所を開設し、現在に至ります。主に離婚事件・男女問題トラブルの解決に取り組んでおります。

>アクセス

アクセス

電車でお越しの際は、仙台市営地下鉄南北線勾当台公園駅でお降りいただくと便利です(徒歩10分ほど)。お車でお越しの方は、近隣のコインパーキング(複数ございます)をご利用ください。タクシーでお越しの方は、「仙台メディアテーク」を目印にしていただくと便利です。