最終更新日:2022年9月3日
1 はじめに
今回の記事では、不貞慰謝料を請求するにあたり、「配偶者への請求と不貞相手への請求のどちらを優先するべきか」という問題について解説いたします。
2 理論上の優先順位はあるのか?
不貞慰謝料を請求する場合、理論上は、配偶者への請求・不貞相手への請求に優先順位はありません。
不貞慰謝料は、不貞をした当事者(配偶者・不貞相手)が連帯して支払うべきものであり、配偶者・不貞相手いずれも、請求をされれば全額を支払う義務があります。
つまり、理論上は、配偶者に対して先に請求してもよいし、不貞相手に対して先に請求してもよい、という結論となります。
3 実際上の優先順位はあるのか?
理論上は配偶者・不貞相手への請求に優先順位がないとしても、実際上の戦略は考えなければなりません。
ここでいう「戦略」とは、「最終的に受け取る慰謝料の総額をできるだけ高くする」ということです。
このような観点から考えた場合、配偶者ではなく、不貞相手に対する慰謝料請求を優先した方が、最終的に受け取る慰謝料総額は高くなる傾向(もちろん、全ての事案に当てはまるわけではないのですが)にあります。
これはなぜかというと、配偶者に対する不貞慰謝料請求を先行させ、慰謝料についての合意が成立してしまうと、後に不貞相手への請求をした場合に、「配偶者との間で慰謝料の合意が成立しているのだから、慰謝料の問題は解決済みである」という反論が予想されるからです。
不貞慰謝料は本来、不貞当事者が「連帯して」支払うべきものです。
逆にいえば、「配偶者が既に十分な慰謝料を支払った場合、不貞相手が負うべき慰謝料支払義務は消滅する」ことになります。
これにより、配偶者から十分な慰謝料を先に支払ってもらった場合、不貞相手に対する請求がしづらくなってしまいます。
上記に対しては、「不貞相手から先に慰謝料を支払ってもらった場合であっても、配偶者に対して慰謝料請求をしづらくなる点は同じであり、大差はないのでは?」という疑問が生じるかと思います。
たしかに、理論上はそのとおりです。
ただ、実際上の問題として、配偶者の立場から、「不貞相手が既に十分な慰謝料を払ったのだから、自分(配偶者)が支払うべき慰謝料はゼロである」という主張をすることはしづらいところです。
不貞に関して最も大きな責任があるのは、不貞をした配偶者自身です。そのような立場からすると、「不貞相手が慰謝料を支払った以上、自分(配偶者)が支払いゼロというわけにはいかない」という心理が働くことがあります。
また、配偶者との関係では、単なる慰謝料の問題のほか、離婚それ自体の問題が生じることがあります。
例えば、不貞をした配偶者自身が離婚を望む場合、有責配偶者からの離婚請求は原則として認められないという前提があるため、「ある程度慰謝料を支払ってでも離婚に応じてもらいたい」という考えになることがあります。
以上のことから、一般論としては、「不貞相手に対する慰謝料請求を優先させた方が、最終的に支払われる慰謝料総額が高くなる可能性が高い」といえます。
もちろん全ての事案に当てはまるものではないのですが、請求に着手する前に、配偶者・不貞相手に対する不貞慰謝料の請求順序を考えてみるとよいでしょう。
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記事投稿者プロフィール
下大澤 優 弁護士 仙台弁護士会所属 登録番号49627
専門分野:離婚事件、男女関係事件
経歴:静岡県出身。中央大学法学部法律学科、東北大学法科大学院を経て、平成26年1月に弁護士登録。仙台市内の法律事務所での勤務を経て、平成28年1月、仙台市内に定禅寺通り法律事務所を開設し、現在に至ります。主に離婚事件・男女問題トラブルの解決に取り組んでおります。