記事作成日:2022年12月10日
最終更新日:2022年12月10日
1 離婚を拒否することができる場合とできない場合
(1) そもそも離婚を拒否することができるの?
配偶者から離婚を求められたとしても、当然に離婚に応じなければならないわけではありません。
民法763条は、「夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。」と定めています。
裏返せば、協議が整わない限り、つまり、夫婦双方が離婚に納得しない限り、原則として離婚を成立させることはできないのです。
「配偶者から離婚を求められたとしても、拒否することは自由である」
まずは、この点を理解しておきましょう。
(2) 離婚を拒否することが難しい事案とは?
ただし、離婚を拒否することが難しいケースは存在します。
これは、「法律上の離婚事由が存在するとき」です。
以下、具体的に見ていきましょう。
民法は、5つの離婚事由を定めています(民法770条1項1号から5号まで)。
この5つの離婚事由のどれかに該当してしまうと、裁判による離婚請求が認められてしまいます。
つまり、「離婚を拒否し続けたとしても、裁判を起こされれば離婚が認められてしまう」状況となり、離婚を回避できる可能性が著しく低下してしまうのです。
民法が定める5つの離婚事由は次のとおりです。
① 配偶者に不貞な行為があったとき。
これは、最もわかりやすい離婚事由です。
配偶者以外の女性(または男性)と性的な関係をもってしまった場合、不貞行為に該当し、離婚事由が認められます。
② 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
「悪意の遺棄」とは、正当な理由なく夫婦の同居・協力・扶助義務に反する行為を意味します。
例えば、配偶者の片方が一方的に家を出て、相手方配偶者に対し一切生活費を渡さない場合などが「悪意の遺棄」に該当します。
③ 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
これは、「配偶者が生存しているか死亡しているかを確認できない状態」を意味します。
単なる別居・所在不明・住所不定といった事情は、「生死不明」に含まれません。
実務上は、あまりお目にかかることがない離婚事由です。
④ 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
配偶者が、婚姻生活を維持できない程度の重い精神障害を発症し、かつ、それが回復の見込みのないことを意味します。
精神障害の診断名ではなく、具体的な症状が重要な判断材料となります。
⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
これは、①~④に該当しないものの、離婚を認めるべき事情が存在する場合を意味します。
最も典型的なのは、長期間の別居です。別居が長期に及ぶ場合、もはや夫婦関係の修復は不可能であり、「婚姻を継続し難い重大な事由」だと認定されることがあります。
その他、モラルハラスメント・犯罪行為・浪費といった事情も、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当することがあります。
2 離婚を回避すべき場合にとるべき具体的行動
(1) まずは話し合いの姿勢を
配偶者から離婚を求められたとき、つい感情的になり、喧嘩腰の態度をとってしまいがちです。
しかし、このような態度は、離婚を回避するという目的を考えたとき、有害無益なものです。
離婚を回避するということは、すなわち夫婦関係の修復を目指すということです。
夫婦関係の修復を目指すためには、相手方がなぜ離婚を考えるようになったのか、その原因を突き止めなければなりません。
相手方に対し感情をぶつける前に、「なぜ離婚したいと考えようになったのか?」を冷静に確認してみましょう。
離婚の理由を確認すると、ときに不快な思いをすることもあります。
ここでも、無闇に反論するのではなく、まずは相手方の主張を受け止めましょう。
その上で、改善すべき点があるならば、改善する意思を示すことが重要です。
なお、離婚理由の確認は重要ですが、これは、相手方が説明する離婚理由を鵜呑みにするということではありません。
場合によっては、相手方が説明する離婚理由は建前で、本当の離婚理由が隠されていることもあります。
典型例としては、相手方が実際には不貞相手と再婚するために離婚を求めているのに、夫婦間の性格の不一致を離婚理由として提示するような場合です。
相手方が説明する離婚理由が実態に沿うか否か、慎重に確認しなければなりません。
(2) 話し合いの姿勢をもったことを証拠に残す
前記(1)のとおり冷静な話し合いの態度を示す場合、その様子を証拠に残すことが大事です。
裁判例の傾向からしても、夫婦関係の破綻の有無を認定する場合、離婚を求められた側が関係修復に向けた態度をとっていたかどうかは判断材料にされます。
証拠の残し方としては、夫婦の会話を録音する、できるだけテキストベースでのやり取り(メールやLINEなど)をするといった方法が考えられます。
3 段階別・離婚回避のポイント
(1) 離婚協議
離婚協議(話し合い)の段階は、離婚調停や離婚裁判と比べれば、最も離婚を回避できる可能性が高いといえます。
離婚調停や離婚裁判の段階になると、相手方の離婚意思はそれなりに固いことが多いです。
他方、離婚協議の段階では、相手方もまだ手探りで検討を進めていることもあり、誠実な対応をすれば関係を修復できるチャンスがあります。
離婚協議の段階で重要なのは、決して喧嘩腰で話をしないことです。
相手方から離婚を求められると、つい、こちらの言い分をまくし立てたくなります。
しかし、このような態度をとってしまうと、「やっぱりこの人は私の気持ちを汲み取ってくれないんだ」という印象を相手方に与えてしまいます。
相手方にこう思われてしまうと、協議での解決は難しくなり、いずれは離婚調停・離婚裁判へと手続が進んでしまうリスクが高まります。
(2) 離婚調停
手続が離婚調停まで進むと、相手方の離婚意思はそれなりに固いことが多いです。
裁判所の手続を利用して離婚を求めようというのですから、ある程度離婚に向けて気持ちを固めていることが多いということです。
この段階まで進むと夫婦関係の修復は難しいのですが、まだチャンスはゼロではありません。
離婚調停は、裁判所が強制的に離婚を命じる手続ではなく、あくまでも夫婦の合意を形成する場です。
話し合いの場ですから、こちらが夫婦関係の修復を求める意思や、修復に向けた姿勢を伝えることはできます。
相手方がなぜ離婚を求めるのかについても、具体的に確認してみるとよいでしょう。
最終的に、夫婦双方の意思が折り合わない場合(相手方は頑として離婚を求め、こちらは修復を求める場合)には、「当面の間別居を継続することを確認する」内容の調停を成立させることもあります。
これはいわば、課題を将来へ持ち越すという解決策です。
その他、こちらから「円満調停」(夫婦関係の修復を求める調停)を申し立てることも検討してよいでしょう。
家庭裁判所の調停には、離婚調停だけでなく、円満調停という手続も用意されています。
(3) 離婚裁判
離婚裁判まで進むと、夫婦関係の修復は極めて難しくなります。
相手方が離婚裁判を決意したとなれば、「離婚するかどうか迷いがある」というあやふやな状態ではなく、「とにかく離婚を成立させたい。修復などあり得ない。」という状況であることが通常です。
離婚裁判の段階になった場合、夫婦関係の修復を目指すというよりも、「とにかくこの裁判で離婚が認められてしまうことは回避する」という方針を立てざるを得ません。
離婚が認められてしまえばそれまでなので、将来の修復チャンスに賭けて、目の前の離婚を回避するということです。
離婚を回避できたとしても、将来修復が実現する保証はないため、シビアな選択を強いられることになります。
4 離婚を拒否し続けた場合に生じるデメリット
夫婦関係の修復を求めて離婚を拒否し続ける場合、リスクはゼロではありません。
離婚するかどうかについて夫婦の意見が一致しない場合、別居をして話し合いを継続することが多いです。
そして、別居をした場合には、相手方に対する生活費の分担、すなわち「婚姻費用」の問題が発生します。
夫婦のうち、収入の高い側が離婚を拒否する場合、話し合いがまとまるまでの間、継続的に婚姻費用を負担しなければなりません。
話し合いの見通しがつかないまま、ただ婚姻費用を負担し続けることは、経済的にも心理的にも大きな負担となります。
このような負担を覚悟した上で離婚回避の方針を立てるのかどうか、慎重に考えなければなりません。
5 離婚を拒否するだけでは真の円満解決はできない
ここまでの解説をお読みいただけるとわかるとおり、単に離婚を拒否するだけでは、真に夫婦関係を修復することはできません。
いたずらに離婚を拒否するだけでは、「なぜ頑なに離婚を拒否するのか。私への嫌がらせではないか。」という印象を相手方に持たれかねません。
このような印象を持たれてしまうと、トラブルは泥沼状態に陥ります。
夫婦関係を修復する上で最も重要なのは、まず相手方の言い分を聴くことです。
その上で、相手方の言い分を聞いて改善すべきことは改善する姿勢を見せ、相手方の言い分が不当だと思う場合にはきちんとその理由を伝えることです。
そうすれば、「この人は本当に夫婦関係を修復したいと考えているんだ」という印象を相手方に持ってもらえるかもしれません。
離婚のご相談を数多くお受けしていると、離婚を回避したいという思いを持っているのに、かえって夫婦関係を壊すような行動に出てしまう方を見かけます。
ご本人としても決して悪気があるわけではないのですが、どう行動してよいかわからないまま、どんどん夫婦関係が険悪になってしまうのです。
この記事をお読みいただいた方には、一度冷静にご自身の状況を見つめ、適切な行動をとっていただきたいと思います。
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記事投稿者プロフィール
下大澤 優 弁護士 仙台弁護士会所属 登録番号49627
専門分野:離婚事件、男女関係事件
経歴:静岡県出身。中央大学法学部法律学科、東北大学法科大学院を経て、平成26年1月に弁護士登録。仙台市内の法律事務所での勤務を経て、平成28年1月、仙台市内に定禅寺通り法律事務所を開設し、現在に至ります。主に離婚事件・男女問題トラブルの解決に取り組んでおります。