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配偶者の精神病を理由とする離婚について

最終更新日:2022年10月30日

1 はじめに

 この記事では、配偶者の精神病を理由とした離婚、いわゆる「精神病離婚」について解説いたします。
 精神病離婚は、不貞行為やDVなどと比べると、事例は少ないものです。
 しかし、様々な精神疾患について認識が広まっている昨今では、離婚事由としての精神病について解説が必要だと思われます。

2 精神病離婚について定めた条文

 精神病離婚に関しては、民法に明文の定めがあります。
 具体的には、民法770条1項4号です。同条文は、次の事由がある場合には離婚が認められると定めています。

「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。」

 条文に定められている要素を分析すると、精神病離婚が認められる要件は次のとおりです。

①強度の精神病
 「強度の精神病」とは、正常な婚姻共同生活の維持を期待できない程度の重い精神的障害を意味します。
 どのような病名がついているかは重要ではなく、問題となるのは具体的な病状です。
 典型例を挙げると、精神疾患によって夫婦のコミュニケーションがほとんど取れない状態にある場合などが該当します。

②回復の見込みがないこと
 「回復の見込みがない」とは、相当期間の治療を経ても精神疾患の改善が期待できない場合をいいます。
 この点については、主治医の意見などを聴きつつ、ケースバイケースで判断することになるでしょう。

 以上の要件を満たす場合、婚姻関係の破綻が認定されることになります。

3 強度の精神病であっても離婚が認められない場合

 精神病離婚の要件は前記2のとおりですが、「精神病離婚の要件が満たされても、離婚が認められない場合がある」ことに注意しなければなりません。
 この点については、民法770条2項に定めがあります。同条文を抜き出すと次のとおりです。

「裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。」

 つまり、精神病離婚の要件自体が認められても、裁判所が「一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるとき」には、離婚が認められないこともあるということです。

 では、精神病離婚において考慮される「一切の事情」とは何でしょうか?
 これは、一言でいえば、「精神病を抱える配偶者の、離婚後における療養・生活の見通し」です。
 離婚をした後、精神病を抱える配偶者は、さしたる収入もなく、適切な療養を受けることもできないなど、過酷な状況に置かれる可能性があります。
 精神病によって夫婦関係が破綻したことはやむを得ないとしても、精神病を抱える配偶者への何らのケアもないまま離婚を認めることは認め難いということです。

 では、具体的に、どのようなケアをすれば離婚が認められるのでしょうか?
 この点については、判例を紹介しつつ、次の項目でご説明いたします。

4 精神病離婚の判例

(1) 最判昭和33年7月25日・民集12巻12号1823頁

 標記の最高裁判例は、民法770条2項の趣旨について、以下のように判示しました。

 (民法770条2項は)「諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、ある程度において、前途にその方途の見込のついた上でなければ、ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当と認めて、離婚の請求は許さない法意であると解すべきである。」

(2) 最判昭和45年11月24日・民集24巻12号1943号

 標記最高裁判例は、前記(1)の最高裁判例を踏襲しつつ、結論として離婚を認めました。
 なぜ離婚が認められたかというと、この事案では、離婚を求める側(夫)が、精神病を抱える妻に対し、過去の療養費を実際に負担し、将来の療養費をも負担する意思を示したからです。

(3) まとめ

 以上の2つの判例からわかるとおり、民法770条2項との関係では、「精神病者の離婚後の療養や生活について、離婚を求める側から具体的なケアが提案され、離婚後に適切な療養・生活を維持できる見通しがつくこと」が必要となります。

5 民法770条1項5号との関係について

 本論からは逸れますが、精神病離婚の要件(民法770条1項4号)を満たさない事案でも、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)を理由に離婚が認められることがあります。

 つまり、強度の精神病とまではいえない場合であっても、婚姻中の配偶者の言動等の事情を付加的に主張し、「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められるケースはあるということです。

 精神病離婚が問題となるケースでは、民法770条1項4号または5号のどちらを離婚事由として特定するか、戦略的な判断が必要となるでしょう。

6 おわりに

 精神病離婚は、難しい問題です。
 精神病を発症した配偶者に責任はありませんし、他方の配偶者に責任があるわけでもありません。
 このように、夫婦のどちらにも責任がない状況のもと、離婚を認めるべきか否かを考えなければなりません。

 「夫婦である以上、配偶者が精神病になっても寄り添わなければならない」という価値観もあるでしょうし、「精神病に対するケアは社会福祉の問題であり、夫婦であるからといったケアを強いるべきではない」という価値観もあるでしょう。
 単純な法律問題として割り切ることができない側面があるため、よく考えなければならない問題です。

記事投稿者プロフィール

下大澤 優 弁護士 仙台弁護士会所属 登録番号49627

専門分野:離婚事件、男女関係事件

経歴:静岡県出身。中央大学法学部法律学科、東北大学法科大学院を経て、平成26年1月に弁護士登録。仙台市内の法律事務所での勤務を経て、平成28年1月、仙台市内に定禅寺通り法律事務所を開設し、現在に至ります。主に離婚事件・男女問題トラブルの解決に取り組んでおります。

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