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幼稚園・保育園無償化によって婚姻費用額が減額されるか(東京高等裁判所令和元年11月12日決定)

最終更新日:2022年2月14日

1 幼稚園・保育園の無償化について

令和元年(2019年)10月1日から、子ども・子育て支援法の改正によって、幼稚園・保育園等を利用する3歳〜5歳の子どもの利用料が無償化(以下では、「幼保無償化」と略します)されることになりました。

実際に子育てをされている方は、この制度についてご存知の方も多くいらっしゃるでしょう。

子育て世帯にとっては非常にありがたい制度ですが、別居をしたり離婚をした夫婦の場合、幼保無償化が思わぬ争いを招くことがあります。

2 幼保無償化によって発生する問題

幼保無償化が招く争いとは、別居中の婚姻費用や離婚後の養育費の問題です。

婚姻費用や養育費は、夫婦双方の収入をもとに適切な金額を算定します。そして、算定された金額の中には、「子どもにかかる標準的な教育費」が含まれています。

「子どもの標準的な教育費」の中には、幼稚園や保育園の費用も含まれます。

するとどうなるでしょうか?

幼保無償化は、子どもの幼稚園や保育園の費用を無償化する制度です。ところが、婚姻費用や養育費の中には、「子どもの標準的な教育費」として、幼稚園や保育園の費用が含まれています。

そうしますと、「婚姻費用や養育費に含まれている幼稚園・保育園費用は無償化されたのだから、月々の金額から除外するべきではないか」という問題が生じるのです。

要するに、幼保無償化によって払う必要がなくなった費用の分だけ、婚姻費用・養育費を減額するべきはないか?という争いが生じるのです。

※前提問題として、婚姻費用や養育費について詳しくお知りになりたい方は以下のリンクを御覧ください。

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3 幼保無償化による婚姻費用の減額の可否が問題となった裁判例

幼保無償化によって婚姻費用が減額されるのか?この点について実際に争いとなった裁判例が存在します。東京高等裁判所・令和元年11月12日決定です。

以下では、この裁判例の事案の概要と、裁判所の判断の要旨を説明いたします。

・事案の概要

登場人物は、妻・夫・2人のこどもです。

妻は2人の子どもとともに夫と別居をし、夫に対し、婚姻費用(別居中の生活費)の支払いを求めました。

妻は、夫に対し、月々の標準的な婚姻費用に加えて、子どもの私立幼稚園の費用と習い事の費用についての負担も求めました。

そうしたところ、原審(東京家庭裁判所・令和元年8月29日審判)は、夫に対し、子どもの幼稚園費用・習い事費用について、標準的な教育費を超える金額の2分の1(月々1万6000円)を負担するよう命じました。標準的な婚姻費用に、幼稚園・習い事の費用が加算されたわけです。

これに対し夫は、令和元年10月1日から幼保無償化が開始されることを踏まえ、「無償化される幼稚園費用は、月々の婚姻費用から差し引かれるべきである」と主張し、不服申立てをしました。

幼保無償化によって婚姻費用が減額されるのか?という点が正面から問題となったのです。

・裁判所の判断

夫の不服申立てに対し、東京高等裁判所は次のように判断しました。

「幼児教育の無償化は、子の監護者の経済的負担を軽減すること等により子の健全成長の実現を目的とするものであり(子ども・子育て支援法1条参照)、このような公的支援は、私的な扶助を補助する性質を有するにすぎないから、上記制度の開始を理由として令和元年10月からの婚姻費用分担額を減額すべきであるとする抗告人の主張は採用できない。」

結論として、夫の不服申立ては認められず、幼保無償化によっても婚姻費用は減額されないという判断がされたわけです。

4 裁判所の判断についてのコメント

幼保無償化と婚姻費用・養育費との関係については、「幼保無償化によって恩恵を受けるべきは誰か?」という視点で整理すると理解しやすいと思います。

幼保無償化によって婚姻費用・養育費が減額されるとすれば、幼保無償化の恩恵を受けるのは義務者(上記裁判例の事案では夫)です。幼保無償化によって婚姻費用・養育費が減額されるとなれば、公的支援によって義務者の経済的負担が経ることになります。

他方で、幼保無償化によっても婚姻費用・養育費が減額されないとすれば、幼保無償化の恩恵を受けるのは権利者(上記裁判例の事案では妻)です。権利者は、幼保無償化によって支出が減った分だけ、子育てに経済的余裕が生まれることになります。

皆さんは、どちらが適切だとお考えでしょうか?

置かれた立場によって支持する結論が異なり得るのでしょうが、筆者は、幼保無償化によっても婚姻費用・養育費が減額されない、との結論が妥当だと考えます。

子ども・子育て支援法1条は、「子どもを養育している者に必要な支援を行い、もって一人一人の子どもが健やかに成長することができる社会の実現に寄与することを目的とする」と定めています。

この条文からすると、子ども・子育て支援法が目的とするのは、実際に子育てをしている者、ひいては子どもに対する支援だと理解できます。

そうすると、幼保無償化の恩恵を受けるべきは、実際に子育てをしている側(権利者)と考えるべきだと思います。

記事投稿者プロフィール

下大澤 優 弁護士 仙台弁護士会所属 登録番号49627

専門分野:離婚事件、男女関係事件

経歴:静岡県出身。中央大学法学部法律学科、東北大学法科大学院を経て、平成26年1月に弁護士登録。仙台市内の法律事務所での勤務を経て、平成28年1月、仙台市内に定禅寺通り法律事務所を開設し、現在に至ります。主に離婚事件・男女問題トラブルの解決に取り組んでおります。

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