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不貞をした側からの婚姻費用請求は許されるの?

最終更新日:2022年2月7日

1 はじめに

夫婦が別居をすると、別居中の生活費負担(婚姻費用)の問題を考えなければなりません。

このとき、不貞をした配偶者が自ら家を出て、相手方配偶者に対し婚姻費用を請求する場合があります。

つまり、請求をされる側からしてみれば、「自ら不貞をして家を出た配偶者から、その後の生活費を請求される」という状況に置かれるわけです。

この場合、「なぜ不貞をして家を出た相手方の生活費を負担しなければならないのか」という素朴な疑問が生じます。

今回は、この問題について、裁判例を交えて解説をいたします。

2 不貞をした配偶者からの婚姻費用請求を拒否する法律上の根拠

「不貞をした配偶者からの婚姻費用請求を拒否したい」と考えたとき、その法律上の根拠は何になるでしょうか?

この点については一般的に、信義則(民法1条2項)または権利濫用(民法1条3項)が根拠になると考えられます。

信義則(民法1条2項)とは、「権利を行使する際は、信義に従い誠実に行わなければならない」という原則です。つまり、たとえ婚姻費用を請求できる権利があったとしても、それは信義に従って行使されなければならないということです。

権利濫用(民法1条3項)とは、「権利があるとしても、これを濫用することは許されない」という原則です。つまり、たとえ婚姻費用を請求できる権利があったとしても、これを濫用してはならないということです。

たとえ婚姻費用を請求する権利があったとしても、別居の経緯などがあまりにも身勝手である場合、上記の原則によって婚姻費用請求が許されなくことがあります。

3 不貞をした側が子どもを連れて別居した場合の扱い

子どもがいない夫婦間では、シンプルに婚姻費用請求の可否を考えれば足ります。

しかし実際には、不貞をした側が子どもを連れて別居をし、子どもの生活費をどのように負担するかが問題となることが多くあります。

この点については、「不貞をした配偶者の責任と子どもの問題とは切り分けて考える」必要があります。

一般的には、不貞をした配偶者が自身の生活費を請求することができなくなることは仕方ないとしても、子どもの生活費までもが影響を受けることは正当化できない、との結論になります。

この場合には、夫婦の収入を踏まえて子どもの養育費を計算し、養育費の範囲内で婚姻費用請求が認められることになります。

要するに、不貞をした配偶者の生活費部分のみが減額されるということです。

4 裁判例の紹介

実際の裁判例でどのような判断がされたのかを紹介いたします。

関連裁判例は多々ありますが、今回は一例として、大阪高等裁判所・平成28年3月17日決定(判例タイムズ1433号126ページ)を紹介いたします。

・事案の概要

この事案では、妻が不貞をし、その不貞行為が原因となり夫婦が別居をするに至りました。

夫婦の間には二人の子どもがおり、別居後、子どもたちは妻と一緒に生活をしていました。

このような状況の中、妻が夫に対し、婚姻費用を請求しました。

・裁判所の判断

裁判所は、まず次の一般論を示しました。

「夫婦は、互いに生活保持義務としての婚姻費用分担義務を負う。この義務は、夫婦が別居しあるいは婚姻関係が破綻している場合にも影響を受けるものではないが、別居ないし破綻について専ら又は主として 任がある配偶者の婚姻費用分担請求は、信義則あるいは権利濫用の見地からして、子の生活費に関わる部分(養育費)に限って認められると解するのが相当である。」

その上で裁判所は、妻が不貞をしたことが別居の主な原因であると認定し、妻から夫に対する婚姻費用請求は、子どもたちの養育費部分に限って認められると判断しました。

5 計算方法の一例

ここまでは、「不貞をした側が婚姻費用請求をした場合、請求できる金額は子どもの養育費相当額に限られることがある」ということを説明いたしました。

それでは、実際の金額にどの程度の変動が生じるのでしょうか?以下、フィクションの事例をもとに説明をいたします。

X(妻)とY(夫)の間には、3歳と5歳の子どもが2人います。

Xの年収は400万円、Yの年収は800万円です。

Xは、Y以外の男性と不貞関係をもち、その後、子ども2人連れてYとの別居を開始しました。

この事例の場合、XがYに対して本来請求できる婚姻費用は月額14万円程度です。

他方で、養育費として請求できるのは月額9万円程度です。

つまり、Xの婚姻費用請求が信義則違反・権利濫用にあたると、本来請求できる金額よりも月額5万円ほど低い金額しか請求できない結果となります。

夫婦の収入や子どもの人数・年齢によって実際の金額は変動しますが、婚姻費用請求が信義則違反・権利濫用とされると、別居中の生活費に大きな影響が生じるといえるでしょう。

6 おわりに

今回は、主に不貞に焦点を当てて解説をいたしました。

実際の事案では、不貞以外にも配偶者の有責性が問題になることがあります。

また、そもそも不貞を認定することができるのかが問題になることもあります。

婚姻費用に関して配偶者の有責性が問題となる場合、いわば離婚問題の前哨戦という様相になることがあります。

適切な見通しをつけるためには、弁護士への相談を検討した方がよい事件類型だといえるでしょう。

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記事投稿者プロフィール

下大澤 優 弁護士 仙台弁護士会所属 登録番号49627

専門分野:離婚事件、男女関係事件

経歴:静岡県出身。中央大学法学部法律学科、東北大学法科大学院を経て、平成26年1月に弁護士登録。仙台市内の法律事務所での勤務を経て、平成28年1月、仙台市内に定禅寺通り法律事務所を開設し、現在に至ります。主に離婚事件・男女問題トラブルの解決に取り組んでおります。

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