最終更新日:2022年3月5日
1 はじめに
夫婦が別居をする場合、一方が別居を希望し、他方は同居を続けることを希望することがあります。
この場合、同居の継続を望む側は、家を出て行った配偶者に対し、「私と同居せよ」と求めることができるのでしょうか?
単に「家に戻ってきてほしい」とお願いすることはもちろん可能なのですが、そうではなく、法的に同居を求めることができるのかという問題です。
本記事では、「家を出て行った配偶者に対し、法的に同居を求めることができるのか」を解説いたします。
2 夫婦の同居義務を定めた民法の条文
配偶者に対し同居を求めることができるか否かを考えるにあたっては、まずその根拠となる条文を探さなければなりません。
それでは、夫婦の同居義務を定めた条文はどこにあるのでしょうか?
答えは、民法752条です。民法752条には、次のとおり書かれています。
民法752条:「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」
民法752条には「夫婦は同居し・・・なければならない」と明確に定められていますから、法的に同居を求める場合は、この条文が根拠になるのです。
3 同居を求める場合の手続
夫婦間の話し合いではなく、法的に同居を求める場合、裁判所の手続を用いる必要があります。
具体的には、家庭裁判所に「同居を命じる審判」を申し立てる必要があります。
同居を命じる審判を申し立てた場合、別居を正当とする事情がない限り、「相手方は、申立人の住居において申立人と同居せよ」といった審判が下されることになります。
ただ、個別の事情によっては、同居を命じる審判の申立が却下されることもあり得ます。
例えば、既に夫婦間の信頼関係や愛情が失われてしまっている場合には、同居を再開しても円満な夫婦関係が構築される可能性はきわめて低いため、同居を命じることは適切ではありません(福岡高等裁判所・平成29年7月14日決定・判例タイムズ1453号121頁)。
4 同居を命じる審判が出た後の手続
審判によって同居が命じられた場合でも、命じられた側が審判に従わず、同居が実現しないこともあり得ます。
この場合、審判に従わない相手方に対し、強制執行の手続を執ることができるのかが問題となります。
同居を実現するための強制執行を考えるとき、「直接強制」と「間接強制」の2つの方法が候補にあがります。
「直接強制」とは、実力行使によって義務の履行を実現する方法です。
「間接強制」とは、「義務を履行するまでは1日あたり・・円を支払え」という具合に、金銭支払いを命じることによって義務の履行を間接的に強制する方法です。
それでは、同居を命じる審判に従わない相手方に対し、直接強制・間接強制いずれかの措置を講じることができるのでしょうか?
結論として、同居を命じる審判に従わない相手方に対し、直接強制・間接強制によって義務の履行を強制することはできません(昭和5年9月30日・大審院決定)。
これは、「強制執行によって実現した同居は、夫婦の同居としての意味をなさない」という理由によります。
強制執行によって同居を強制された後、実際にどのような同居生活が営まれるかを考えれば、この結論はやむを得ないといえるでしょう。
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記事投稿者プロフィール
下大澤 優 弁護士 仙台弁護士会所属 登録番号49627
専門分野:離婚事件、男女関係事件
経歴:静岡県出身。中央大学法学部法律学科、東北大学法科大学院を経て、平成26年1月に弁護士登録。仙台市内の法律事務所での勤務を経て、平成28年1月、仙台市内に定禅寺通り法律事務所を開設し、現在に至ります。主に離婚事件・男女問題トラブルの解決に取り組んでおります。