最終更新日:2022年4月1日
1 はじめに
離婚が成立する前に、ある程度の期間別居をすることはよくあります。 この場合、「別居中に支給される児童手当は、夫婦のどちらが受け取るべきか」という問題が生じます。
同居中は、主に生計を維持する側(夫であることが多いでしょう)名義の銀行口座に児童手当が振り込まれます。
しかし、この状態で別居を開始すると、「子どもと一緒に生活しているのは妻なのに、児童手当が夫名義の銀行口座に振り込まれてしまう」ことになるわけです。
この記事では、「別居開始後、実際に子どもと一緒に暮らす側に児童手当が振り込まれるようにするためにはどうすればよいのか」を解説いたします。
2 児童手当の受給者に関する基準
まずはじめに、「児童手当は誰に支給されるのか」という点について、基準を確認しておきましょう。
児童手当に関しては「児童手当法」という法律が存在しますから、児童手当法の条文を確認します。
児童手当の支給要件について定める条文は、児童手当法4条です。関連する条文は次のとおりです。
・児童手当法4条1項1号
「児童を監護し、かつ、これと生計を同じくする父または母」に対して児童手当を支給すると定めています。
しかし、この条文だけでは、「父と母が2人で子どもを監護している場合に、どちらが児童手当を受給するのか?」が明らかではありません。
・児童手当法4条3項
「父と母が2人で児童を監護し、かつ、生計を同じくするときは、生計を維持する程度の高い者によって監護され、かつ、生計を同じくするものとみなす」と定められています。
つまり、父と母が2人で子どもを監護する場合、「生計を維持する程度の高い者」が児童手当の受給者になるということです。
「生計を維持する程度の高い者」とは、要するに、収入が多い側ということです。
この条文は、夫婦が同居する場合を想定したものです。では、別居をした場合はどうなるのかというと、次の項に定めがあります。
・児童手当法4条4項
「父と母のいずれか一方が児童と同居する場合は、同居する親によって監護され、かつ、生計を同じくするものとみます」と定められています。
つまり、夫婦が別居をする場合、子どもと同居する側が児童手当の受給者になるということです。
3 別居を開始した後の手続き
ここまでの説明によって、夫婦が別居した場合、子どもと同居する側が児童手当の受給権者となることがおわかりになったかと思います。
ただ、別居後、児童手当の振込先を変更(例えば、それまで夫名義の銀行口座であったものを妻名義の銀行口座に変更)するためには、役所への手続きが必要です。
具体的には、別居に伴い児童手当の受給権者が変更されたことを役所に申請するわけです。この申請をするにあたっては、原則として次の2つの要件を満たさなければなりません。
①夫婦の住民票が別世帯となっていること
別居をしたものの、住民票がそのままになっていると受給者の変更ができません。
別居先の住所で住民登録をするか、別居前の住所で世帯分離をするといった対応が必要になります。
②離婚を前提とした別居であることを裏付ける資料の提出
円満な状態での別居ではなく、離婚を前提とした別居であることを役所に説明しなければなりません。
役所に提出すべき資料の例は次のとおりです。
・相手方に対する離婚協議の申し入れ文書(弁護士が作成した受任通知など
・離婚調停の事件係属証明書(離婚調停の申立をした後、家庭裁判所から入手することができます)
・離婚調停の期日呼び出し状(相手方から離婚調停を申し立てられた場合)
・離婚調停の不成立証明書(離婚調停が不成立となった後、家庭裁判所から入手することができます。)
4 DV事案における例外的手続
児童手当の受給者変更に関する手続きは前記3のとおりですが、DV事案の場合は異なる手続きが設けられています。
DV事案における手続きの特殊性は、「住民票を移すことが不要」となる点にあります。
DV事案の場合、住民票を移すことによって、DV加害者に転居先が知られてしまう可能性があります。このため、住民票をそのままにすることもやむを得ない場合があるのです。
DV被害に悩まれている方は、住民票を移さずとも児童手当の受給者になり得ることを知っておくとよいでしょう。
住民票を移さないまま児童手当の受給者となるための要件は次のとおりです。
①DV被害者・子ともに、相手方の健康保険上の被扶養者となっていないこと。
②裁判所から相手方にDV保護命令が出されていること。
③婦人相談所等により、「配偶者からの暴力の被害者の保護に関する証明書」が発行されていること。
※②・③は、どちらかを満たせば足ります。
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記事投稿者プロフィール
下大澤 優 弁護士 仙台弁護士会所属 登録番号49627
専門分野:離婚事件、男女関係事件
経歴:静岡県出身。中央大学法学部法律学科、東北大学法科大学院を経て、平成26年1月に弁護士登録。仙台市内の法律事務所での勤務を経て、平成28年1月、仙台市内に定禅寺通り法律事務所を開設し、現在に至ります。主に離婚事件・男女問題トラブルの解決に取り組んでおります。