最終更新日:2022年12月1日
1 はじめに
養育費の額を取り決めた場合、基本的には、子どもが自立するまでの間、取り決めた養育費を支払うことになります。
しかし、一度取り決めた養育費を事後に変更すべき場合もあります。
養育費の額を変更すべき事情が生じた場合に、父母双方がきちんと話し合いをし、適切な額に変更することができれば何の問題もありません。
しかし、中には、「養育費額に影響を与えるような事情変更の存在に気付くことができず、養育費額の変更を協議することすらできない場合」があります。
これは例えば、養育費を取り決めた後、親権者となった母親が再婚をし、再婚相手と子どもが養子縁組をしたものの、父親は養子縁組の事実を知らなかったような場合です。
養子縁組をすると、子どもに対する一次的な扶養義務は養親が負うことになりますから、実の父親は、養育費の減額(あるいは免除)を求めることができたわけです。
このように、養育費を減額すべき事情が存在することが後に発覚した場合、それまでに支払った養育費は、いわば過払いの状態にあります。
本来ならば、事情変更が生じた時点で養育費が減額されるべきであったにもかかわらず、これを知らずに過大な額を払い続けてしまったということです。
このような場合、払いすぎた養育費を過去にさかのぼって取り戻すことができるのでしょうか?
この記事では、この問題について解説いたします。
なお、別記事にて、「再婚をした場合に養育費を減額することができるのか」という問題についても詳しく解説しております。以下のリンクからご覧ください。
2 事情変更と養育費の減額との関係
まず注意が必要なのは、「養育費を減額すべき事情変更の発生」と「養育費の減額」とは、当然に連動するものではないという点です。
「養育費を減額すべき事情変更の発生」によって当然に養育費が減額されるのではなく、減額を実現するためには、相手方に対する養育費減額請求という手続を経なければなりません。
養育費を減額すべき事情変更が発生したからといって、一方的に養育費を減額してしまうと、債務不履行となってしまいます。
3 過去にさかのぼっての減額が可能か
現在の実務における一般的な見解は、「養育費減額の効果が発生するのは、実際に減額の請求をした時点からである」というものです。
これを前提とすると、養育費減額の調停を申し立てる場合、減額の始期は調停申立て時点となります。
しかし、養育費の減額を請求するためには、そもそも、減額を求める側が、減額をすべき事情変更の存在に気付いていなければなりません。
相手方の再婚・養子縁組といった事情は、相手方から知らせてもらわない限り、容易に気付くことができるものではありません。
相手方が意図的に再婚・養子縁組の事実を隠していた場合、養育費を支払う側は、減額請求の機会を与えられないまま過大な養育費を支払い続けたことになります。
このような場合には、養育費減額請求時点を減額の始期とするのではなく、過去にさかのぼって減額を認めるべきではないかという疑問が生じます。
この点について、裁判例の判断は分かれています。
①養育費を支払う側が養子縁組の事実を知り得なかったとしても、過去にさかのぼっての減額は認めず、減額請求をした時点から減額を認める裁判例もあれば、②養子縁組の時点までさかのぼっての減額を認めた裁判例もあります。
4 裁判例の判断が分かれる理由
前記のとおり、養育費減額請求時よりもさかのぼって養育費減額を認めるか否かについて、裁判例の判断は分かれています。
このように判断が分かれる理由は、「さかのぼっての養育費減額を認めるか否かは、裁判所の合理的裁量に委ねられている」からです。
裁判所は、個々の事案において、過去のさかのぼって養育費を減額すべきか否かを判断します。
事案によっては、過去にさかのぼって養育費の減額を認めることが権利者にとって酷になることもあり得ます。
たとえば、養子縁組をしたのが何年も前のことであり、養子縁組時点までさかのぼって養育費減額を認めると、過払い額が極めて高額になる場合などです。
5 おわりに
以上のとおり、過去にさかのぼっての養育費減額が認められるか(払いすぎた養育費を取り戻すことができるか)について、現在の裁判実務では、明確な結論があるわけではありません。
結論は個々の事案ごとに変わり得るというほかないでしょう。
間違いなくいえることは、「養育費を減額すべき事情変更が判明した場合、できるだけ速やかに減額請求を行った方がよい」ということです。
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記事投稿者プロフィール
下大澤 優 弁護士 仙台弁護士会所属 登録番号49627
専門分野:離婚事件、男女関係事件
経歴:静岡県出身。中央大学法学部法律学科、東北大学法科大学院を経て、平成26年1月に弁護士登録。仙台市内の法律事務所での勤務を経て、平成28年1月、仙台市内に定禅寺通り法律事務所を開設し、現在に至ります。主に離婚事件・男女問題トラブルの解決に取り組んでおります。