最終更新日:2022年3月6日
1 はじめに
離婚をするにあたって、自宅不動産の財産分与が問題となることはよくあります。
不動産の購入資金を夫婦共有財産から支出していた場合は比較的シンプルに財産分与額を計算できますが、頭金等を夫婦一方の特有財産から支出した場合には、財産分与額の計算は複雑になります。
この記事では、不動産の購入資金に特有財産が含まれる場合の財産分与額計算方法について解説いたします。
2 通常の財産分与計算方法
本論に入る前に、不動産の財産分与額を計算する一般的な方法を解説します。
不動産の財産分与額を考えるにあたっては、まず、不動産の現在価値を確定しなければなりません。実際に売却をする場合は売却価格が現在価値となり、売却をしない場合は業者の査定価格をもとに現在価値を決めます。
不動産の現在価値が確定したら、次は住宅ローンの残高を考慮します。住宅ローンは不動産に関する負債ですから、不動産の現在価値から住宅ローン残高を差し引いた残りの額が、不動産の正味の価値となります。
以上を踏まえますと、以下の計算式によって、不動産の財産分与額を算定することができます。
(計算式)
不動産の現在価値-住宅ローン残高×0.5(財産分与割合)
例えば、不動産の現在価値が1500万円、住宅ローン残高が500万円である場合、250万円が夫婦各自の財産分与額になるわけです。
3 特有財産を頭金に充てた場合の財産分与計算方法
ここからが本記事のポイントとなります。
夫婦が不動産を購入する際、夫婦の一方が独身時代に貯めたお金や、夫婦の一方の親族から贈与されたお金を頭金に充てることがあります。
夫婦の一方が独身時代に貯めたお金や、夫婦の一方の親族から贈与されたお金は、夫婦の共有財産ではなく、夫婦の一方の特有財産であると考えられます。
そうすると、頭金を準備した側は、自身の特有財産によって不動産購入代金の一部を支払ったことになります。
このように、夫婦の一方が特有財産によって不動産購入代金の一部を支払った場合、その支払い分は財産分与の場面で考慮されるべきです。
では、夫婦の一方が特有財産で不動産購入代金の一部を支払った場合、財産分与の場面で実際にどのように考慮すべきなのでしょうか?
この点については、住宅ローンが残っていない場合と残っている場合とで処理が変わります。以下、それぞれの場合に分けて解説いたします。
(1) 住宅ローンが残っていない場合
架空の事例として、①不動産の購入代金が3000万円、②不動産の現在価値が1800万円、③住宅ローン残高は0円、④特有財産からの支出額が500万円、という場合を想定します。
この場合、まずは、「不動産の購入代金に占める特有財産からの支出額の割合」を計算します。つまり、④÷①ということです。上記事例の場合は6分の1となります。この割合が、「⑤特有財産を支出した側の優先的取り分割合」となります。
次に、不動産の現在価値のうち、「特有財産を支出した側の優先的取り分割合」に応じた金額を計算します。つまり、②×⑤ということです。上記事例の場合は、300万円となります。この金額が、特有財産支出者が優先的に取得する額です。
以上を踏まえますと、特有財産支出者が優先的に取得する額は300万円、残り1500万円を財産分与の対象とすることになります。
財産分与割合が2分の1ずつであるとすれば、夫婦各自が財産分与として取得する額は750万円ずつです。特有財産を支出した側は、優先的に取り分けた300万円を取得しますから、最終的な取得額は1050万円となります。
(2) 住宅ローンが残っている場合
住宅ローンが残っている場合、処理の仕方には大きく2つの考え方があります。
1つ目は、「住宅ローンは夫婦の共有部分から返済すべき」という考え方です。
2つ目は、「住宅ローンは不動産の価値全体から返済すべき」という考え方です。
これだけではわかりにくいと思いますから、以下、架空事例にあてはめて解説いたします。
ア 「住宅ローンは夫婦の共有部分から返済すべき」という考え方
架空の事例として、①不動産の購入代金が3000万円、②不動産の現在価値が1800万円、③住宅ローン残高は600万円、④特有財産からの支出額が500万円、という場合を想定します。
「住宅ローンは夫婦の共有部分から返済すべき」という考え方の特徴は、特有財産者の優先的取得分を先に取り分け、残りの金額から住宅ローンを差し引き、最終的に残った額を財産分与の対象とすることにあります。
上記の例をあてはめますと、次のとおりの計算となります。
まず、不動産の現在価値1800万円に、特有財産を支出した側の優先的取り分割合(6分の1)を乗じ、300万円(1800万円×6分の1)を特有財産支出者の優先的取得額とします。
次に、特有財産支出者の優先的取得額300万円を除いた不動産の現在価値1500万円(1800万円-300万円)から住宅ローン残高を差し引きます。そうすると、900万円(1500万円-600万円)という金額が算出されます。
最後に、上記方法によって算出された900万円を、夫婦各自が財産分与として取得します。つまり、夫婦各自が450万円ずつを取得するということです。
特有財産支出者は、450万円に加え、優先的取得額300万円を取得しますから、最終的な取得額は750万円です。
上記の方法によると、特有財産支出者は750万円、そうでない者は450万円を取得する結果となります。
イ 「住宅ローンは不動産の価値全体から返済すべき」という考え方
「住宅ローンは不動産の価値全体から返済すべき」という考え方の特徴は、特有財産支出者の優先的取り分を考慮した額ではなく、不動産の現在価値全体から住宅ローンを差し引くことにあります。
前記アと同じ架空事例をもとに説明をいたします。
まず、不動産の現在価値1800万円から、住宅ローン残高600万円を差し引きます。そうすると、不動産の正味価値は1200万円となります。
次に、不動産の正味価値1200万円(1800万円-600万円)に、特有財産を支出した側の優先的取り分割合(6分の1)を乗じ、200万円(1200万円×6分の1)を特有財産支出者の優先的取得額とします。
次に、特有財産支出者の優先的取得額200万円を除いた不動産の現在価値1600万円(1800万円-200万円)から住宅ローン残高を差し引きます。そうすると、1000万円(1600万円-600万円)という金額が算出されます。
最後に、上記方法によって算出された1000万円を、夫婦各自が財産分与として取得します。つまり、夫婦各自が500万円ずつを取得するということです。
特有財産支出者は、500万円に加え、優先的取得額200万円を取得しますから、最終的な取得額は700万円です。
上記の方法によると、特有財産支出者は700万円、そうでない者は500万円を取得する結果となります。
ウ 特有財産支出者にとってどちらが有利か
「住宅ローンは夫婦の共有部分から返済すべき」という考え方と「住宅ローンは不動産の価値全体から返済すべき」という考え方とを見比べれば明らかなとおり、特有財産支出者にとっては、「住宅ローンは夫婦の共有部分から返済すべき」という考え方の方が有利です。
実際の裁判等でいずれの考え方が採用されるかはケースバイケースですが、特有財産支出者としては、「住宅ローンは夫婦の共有部分から返済すべき」という考え方をもとに主張をすることが適切です。
4 不動産の価値がマイナス(オーバーローン)の場合
現実の事案では、不動産の現在価値よりも住宅ローン残高の方が多額である場合(いわゆるオーバーローン)があります。
オーバーローン不動産の場合、夫婦の一方が特有財産から頭金等を支出していても、その支出分を財産分与において考慮することは原則としてできません。
財産分与とは、プラスの財産を分配する手続であり、負債を分配することはできないと扱われるからです。
ただし、オーバーローン不動産のほか、預金等の財産が存在する場合には、預金等を分与する際に、夫婦の一方が特有財産から頭金等を支出したことを考慮する余地はあるでしょう。この場合、「特有財産からの支出がなければ、住宅ローン残高はもっと多額であった。特有財産からの支出によって負債が減少しているのだから、預金等は頭金等の支出者に優先的に分与されるべきである。」といった主張をすることが考えられます。
5 おわりに
不動産の購入代金の一部を特有財産から支出した場合、財産分与額の計算は複雑になります。
どのような考え方に立てば有利になるのか、見通しを立てつつ主張をする必要がありますから、ご自身で対処することが難しい事件類型といえるでしょう。
少しでも不安がある方は、弁護士に相談してみることがベストな選択です。
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記事投稿者プロフィール
下大澤 優 弁護士 仙台弁護士会所属 登録番号49627
専門分野:離婚事件、男女関係事件
経歴:静岡県出身。中央大学法学部法律学科、東北大学法科大学院を経て、平成26年1月に弁護士登録。仙台市内の法律事務所での勤務を経て、平成28年1月、仙台市内に定禅寺通り法律事務所を開設し、現在に至ります。主に離婚事件・男女問題トラブルの解決に取り組んでおります。