最終更新日:2022年11月29日
1 はじめに
離婚に関するご相談をお受けしていると、『婚姻費用・養育費を相手方に請求したところ、相手方から、「児童手当をもらっているのだから、その分は減額するべきだ」と言われた』という相談が寄せられることがあります。
相手方にしてみれば、「児童手当は収入なのだから、その分は婚姻費用・養育費の額を決める際に考慮してほしい」という考えなのでしょう。
では、「児童手当の受給額は婚姻費用・養育費額の算定にあたって考慮されるべきだ」という主張は正しいのでしょうか?
今回は、この問題について少し掘り下げて解説いたします。
2 児童手当は「収入」なのか?
婚姻費用・養育費を算定する際は 、父親と母親双方の収入をベースに、一定の計算式にあてはめて金額を計算します。
もし児童手当が「収入」にあたるのだとすれば、婚姻費用・養育費を算定する際に考慮されるべきだという結論になります。
一般的な意味合いで考えれば、児童手当は定期的に給付されるお金なのですから、「収入」にあたるといえそうです。しかし、婚姻費用・養育費を算定するための「収入」を考えるときは、そもそも児童手当はどういった性質の給付なのかを検討することが大事です。
3 児童手当の性質は何か?
児童手当の性質は何かを考えるときは、児童手当の根拠となる法律の定めを読むことが重要です。
児童手当の根拠となる法律は、「児童手当法」です。では、児童手当法には一体どのようなことが書かれているのでしょうか。
児童手当法の第1条には、「子ども・子育て支援の適切な実施を図るため、父母その他の保護者が子育てについての第一義的責任を有するという基本的認識の下に、児童を養育している者に児童手当を支給することにより、家庭等における生活の安定に寄与するとともに、次代の社会を担う児童の健やかな成長に資することを目的とする。」と書かれています。
法律の条文なので表現は難解ですが、要するに、「児童手当は、子どもの健やかな成長のために支給するものである。そのため、児童手当は、現に子どもを養育している保護者に支給する。」という内容が書かれています。
つまり、児童手当とは、子どものために支給されるものであり、保護者の生計維持のために支給されるものではないのです。保護者の生計維持のために支給されるものではない以上、児童手当を「収入」として扱うことはできません。
児童手当が支給されることによって婚姻費用・養育費が減額されてしまうのだとすれば、減額された分の恩恵は義務者(子どもを養育しない側)が受けることになり、子どものための手当という性質が薄れてしまいます。
4 裁判例の紹介
ここまで解説した内容から、児童手当の支給を理由に婚姻費用・養育費を減額することはできないということはおわかりいただけたかと思います。
現実の裁判例においても、児童手当の支給を理由に婚姻費用・養育費を減額することはできないという判断がされています。
ここでは、ご参考までに、東京家庭裁判所・平成27年6月17日審判を紹介いたします。
東京家庭裁判所・平成27年6月17日審判は、以下のように述べ、児童手当の支給を理由に婚姻費用を減額することを否定しました。
「(児童育成手当及び児童扶養手当は)・・・生活保持義務に基づく婚姻費用分担金とは異なる観点からの公的支給であるから、婚姻費用分担金を算定するに当たり児童育成手当及び児童扶養手当を申立人の収入と捉えることは相当とはいえない。」
5 おわりに
児童手当と婚姻費用・養育費の関係についておわかりいただけたでしょうか?
児童手当の支給を理由に婚姻費用・養育費を減額すべか否かという点で対立をしてしまうと、無用な争点によって解決が長期化することになってしまいます。
児童手当の性質を正しく理解し、無用な争いが生じないようにしたいところです。
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記事投稿者プロフィール
下大澤 優 弁護士 仙台弁護士会所属 登録番号49627
専門分野:離婚事件、男女関係事件
経歴:静岡県出身。中央大学法学部法律学科、東北大学法科大学院を経て、平成26年1月に弁護士登録。仙台市内の法律事務所での勤務を経て、平成28年1月、仙台市内に定禅寺通り法律事務所を開設し、現在に至ります。主に離婚事件・男女問題トラブルの解決に取り組んでおります。
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