財産分与について
最終更新日:2022年3月6日
1 財産分与とは何か
「財産分与」とは、結婚をしてから夫婦が協力して作り上げた財産を、離婚に伴い分ける制度です。
財産分与の法律上の根拠は民法768条です。民法768条は、財産分与について以下のように定めています。
民法768条
1 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
財産分与の法律上の根拠は上記のとおりですが、これだけでは財産分与の問題を解決する手がかりとはなりません。
財産分与の問題を考えるにあたっては、長期間継続した結婚生活の中で作り上げた財産をピックアップし、その中でどのような財産が分与の対象になるのかを検討しなければなりません。
財産分与の問題を解決するためには様々な知識が必要となるため、適切な解決がなされないまま離婚を成立させてしまう例も多くあります。
財産分与は、分与を受ける側にとっては離婚後の生活を支える大事な経済的基盤になりますから、十分に検討をしなければなりません。
2 財産分与に対象に含まれる財産
財産分与の基本的視点は、「結婚をしてから離婚(または別居)をするまでの間に夫婦が協力して作り上げた財産の清算」です。
この基本的視点を忘れなければ、どのような財産が財産分与の対象になるかについて一応の見通しを立てることができます。
しかし、中には、「結婚をしてから離婚(または別居)をするまでの間に夫婦が協力して作り上げた財産」といえるかどうかの判断に迷うものもあります。
以下では、財産分与の対象に含まれることに争いがない財産、財産分与の対象に含まれるかについて判断に悩む財産について説明いたします。
(1) 財産分与の対象に含まれることに争いがない財産
結婚をした後に、夫婦の収入をもとに作り上げた財産は、財産分与の対象となります。
様々な財産が考えらますが、一例を挙げると次のような財産が財産分与の対象となります。
①結婚をした後に、夫婦の収入をもとに貯めた銀行預金
②結婚をした後に、夫婦の収入をもとに購入した不動産
③結婚をした後に、夫婦の収入をもとに購入した株式
④結婚をした後に契約をした保険(解約返戻金)
⑤結婚をした後に、夫婦の収入をもとに購入した自動車
(2)財産分与の対象に含まれるか争いとなり得る財産
以下のような財産は、財産分与の対象となるかが争われることがあります。
①退職金
②私的年金
③夫婦の一方が特有財産から頭金などを支出して購入した不動産
3 財産分与の対象に含まれない財産
夫婦の協力とは無関係に作り上げられた財産は、財産分与の対象とはなりません。
例えば以下のような財産は、夫婦の一方の特有財産にあたり、財産分与の対象とはなりません。
①結婚前から存在する預金
②結婚前に購入した不動産
③相続や贈与によって取得した財産
4 財産の種類ごとの解説
(1) 不動産
頭金を特有財産(独身時代に貯めたお金や、両親から贈与されたお金)から支出した場合には、不動産の財産分与額の計算は複雑になります。
この問題については、別記事にて詳しく解説しておりますので、以下のリンクからご覧ください。
(2) 退職金
退職金は、財産分与をする時点よりも将来の時点で支給されることも多く、財産分与の対象に含まれるかが争われることがあります。
この点については、将来支給される退職金であっても財産分与の対象になると理解されています。
退職金の財産分与については別ページにて詳しく解説しておりますので、次のリンクを御覧ください。
(3) 企業年金・個人年金
公的年金のほか、企業が独自に加入する年金や、個人が私的に契約する年金があります。
このような年金が財産分与の対象となるかが争われることがあります。
以下では、①確定給付企業年金、②確定拠出年金、③個人年金に分けて解説します。
①確定給付企業年金
確定給付企業年金法に基づき設置された企業年金です。
給付は年金または一時金によって行われ、給付額が事前に確定している点に特徴があります。
定年前に脱退する場合、脱退一時金が給付されます。
確定給付企業年金は、退職金の分割払いという性質をもつため、財産分与の対象となります。
財産分与の対象額を決める際は、脱退一時金の額、あるいは年金に代わる一時金の額をもとに、婚姻期間に応じた額を基準とします。
②確定拠出年金
確定拠出年金法に基づく私的年金です。
個人または事業主が拠出した資金を、個人が自己の責任で運用し、運用実績に応じた額が支給されます。
確定拠出年金も、確定給付企業年金と同じく財産分与の対象となります。
③個人年金
保険会社や銀行が、金融商品として販売するものです。
性質としては一般の保険契約と似ており、解約返戻金が発生します。
財産分与基準時における解約返戻金額が財産分与の対象となります。
5 いつの時点で存在した財産が分与の対象となるか(財産分与の基準時)
財産分与を考える場合、「いつの時点で存在した財産が分与の対象となるか」を決めなければなりません。これを決めないと、財産分与を検討することができないからです。
この点については、一般的に、別居開始時または離婚時が基準とされることが多いです。
財産分与とは、夫婦が協力して作り上げた財産の清算のための手続ですから、夫婦の協力関係が失われた時点を区切りとするという視点です。
一旦別居をしてから離婚をする場合、別居時が財産分与の基準時とされることが一般的です。
6 財産価値の評価はいつの時点が基準とされるか(財産分与対象財産の評価基準時)
財産分与の基準時を別居時とした場合、別居時に存在した財産を実際に分与するのは離婚時となります。
この場合、財産分与基準時(別居時)と実際に分与をする時点とで、財産の価値が変動することがあります。現金や銀行預金であれば価値の変動はありませんが、不動産や株式などは日々価値が変動するものです。
では、財産分与基準時(別居時)と実際に分与をする時点とで、財産の価値が変動した場合、いつの時点の価値を基準に財産分与額を決めればよいのでしょうか。
この点については、一般的に、実際に財産分与をする時点での価値を基準にすると解釈されています。
例えば、財産分与の対象となる不動産の価値が、別居時に2000万円、財産分与時に2500万円と変動した場合、2500万円を基準に財産分与額を決めるということです。
7 財産分与の割合(寄与度)は常に2分の1か
財産分与の割合(寄与度)をどの程度にするかが問題になることがあります。
基本的には、夫婦の共有財産をそれぞれ2分の1ずつ取得するという結論(いわゆる「2分の1ルール」)になることが多いのですが、このような結論では不都合が生じる場合もあります。
夫婦の一方が、特殊な資格や能力によって高額な収入を得て、その収入をもとに高額な財産を作り上げた場合には、財産分与の割合に差をつけることが公平です。
具体的には、夫婦の一方がプロスポーツ選手として高額な収入を得ていた場合、夫婦の一方が医師等の資格によって高額な収入を得ていた場合、夫婦の一方が投資によって高額な収入を得ていた場合などが考えられます。
このような場合には、2分の1ルールを修正し、5:5ではなく6:4、7:3・・・と財産分与割合に差をつけることが妥当とされることがあります。
8 財産分与を行うための準備
財産分与は、基準時に存在した夫婦共有財産を分配する手続です。
そうしますと、まずは、「基準時にどのような財産が存在したか」を確認しなければ、財産分与の手続を進めることはできません。
ご自身名義の財産(銀行預金、不動産、株式、保険など)であれば、財産をリストアップすることは比較的簡単です。
ただ、相手方名義の財産となると、そもそもどのような財産が存在するのかを知らなかったり、存在自体は知っていても詳細がわからないことが多くあります。
相手方の財産が不明である場合は、適切な調査手続(弁護士会の照会制度を利用する、裁判所の調査嘱託制度を利用するなど)によって詳細の把握をしなければなりません。
財産分与を請求する前に準備すべきことについては、以下のページで詳しく解説しております。
9 慰謝料的財産分与・扶養的財産分与
これまでご説明をしたのは、夫婦の共有財産を清算するための財産分与(清算的財産分与)についてです。
清算的財産分与以外にも、慰謝料的財産分与、扶養的財産分与と言われる財産分与が存在します。
以下では、慰謝料的財産分与と扶養的財産分与について説明をいたします。
(1) 慰謝料的財産分与とは
慰謝料的財産分与とは、離婚による慰謝料を財産分与の中に含めて請求する方法です。
慰謝料は本来、財産分与とは異なる性質ですが、慰謝料と財産分与を個別に請求しなければならないわけではなく、慰謝料的財産分与として慰謝料を請求することもできると理解されています。
とはいえ、あえて慰謝料的財産分与を請求するメリットがある事案は限られます。慰謝料は慰謝料として請求すればよいのですから、あえて財産分与として請求する必要性は乏しいのです。
あえて慰謝料的財産分与を請求するメリットがあるのは、離婚後に財産分与請求の審判などを申し立て、その手続の中で慰謝料の問題も同時に解決したい場合などに限られるでしょう。
(2) 扶養的財産分与とは
扶養的財産分与とは、離婚後の配偶者の生計維持を目的とする財産分与です。
扶養的財産分与を行う際は、離婚後に一定期間生計を維持するためにどの程度の金額が妥当か、という視点を用います。
本来であれば、離婚によって夫婦間の扶養義務は消滅するため、離婚後の配偶者の生計維持を考慮する必要はありません。
しかし、さしたる財産分与もないまま離婚をすると、配偶者の一方が経済的に苦しい立場に置かれることがあります。このような不都合を避けるため、いわば例外的に扶養的財産分与を検討することになります。
10 財産分与の請求期限
離婚が成立してから2年を経過してしまうと、原則として財産分与を請求することができなくなります(民法768条2項ただし書き)。
2年というとそれなりに長く感じますが、離婚後の慌ただしい生活を送っていると、2年という期間は意外に短いです。
万が一にも財産分与を請求することが不可能となる事態が生じないよう、請求期限は意識しておかなければなりません。
離婚の話し合いとともに財産分与の話し合いを進めることがベストです。
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記事投稿者プロフィール
下大澤 優 弁護士 仙台弁護士会所属 登録番号49627
専門分野:離婚事件、男女関係事件
経歴:静岡県出身。中央大学法学部法律学科、東北大学法科大学院を経て、平成26年1月に弁護士登録。仙台市内の法律事務所での勤務を経て、平成28年1月、仙台市内に定禅寺通り法律事務所を開設し、現在に至ります。主に離婚事件・男女問題トラブルの解決に取り組んでおります。
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